短編小説「百日の写真」(9)
チュチェ113(2024)年 出版
狭くて険しい山道を広々とした大道路につくるのは、
(
そこまで考えが及ぶとボクマンはこれ以上座っていられなかった。席から跳ね上がったが、がっくりと座り込んでしまった。
(どうしよう、事績館に帰ったってカメラはないんだ、一つしかない事績館のカメラはほかの学芸員が数日前、ユピョン革命史跡地に持って行ったじゃないか)
そのユピョン里というのはヨンジャン里とは正反対にある村だった。切羽詰っていた彼の目がふと部屋のカメラに止まると、ある考えが脳裏を掠めた。
カメラマンに頼んでみることにしたのだ。
「気兼ねすることはない。私だってチャンソンの人ですからね。
焦り立つチェ・ボクマンの気持ちを推し量ったカメラマンは杯をテーブルに置いた。そして出発。
まるで自転車の競走でもするかのように追いつ追われつ、オクポ里の放牧地に通じる分かれ道に差し掛かった二人は、そこからは自転車を担いで山道を急いだ。藪が群がり、自転車に乗るどころか歩くのもままならなかった。
「あれからずいぶん歳月が経ったのに、いまだに道がこんなに険しいとは。当時はもっと酷かったでしょうね」
「当たり前でしょう。そのときはね、真昼にもイノシシがのそのそと降りてくる道だったそうでね」
息せき切って山道を上り、はあはあ喘ぎながら交わす二人の話には、
そのようにして上りながら、ゆかりのある写真を何枚か撮った。
「あいつ、丸いお尻を見ると雌にちがいない。こいつも百日の写真を撮ってもらいたくて出て来たのかな」
意気揚々としてシャッターを切り続けていたカメラマンは西の空をチラッと見て、あわて始めた。太陽が静かに西のほうへ暮れようとしていたのだった。
「もう帰りましょう。ノロじかの写真まで撮って時間を取りすぎている。あなたの一人娘の百日の写真は撮れなくなるよ」
けれども、チェ・ボクマンはただうなずくだけで、急ぐ様子など全くなかった。かえってわざと出発を先に延ばしているように見えた。
「なにかあったんですか。なにをお考えですか」
オクポ里の方へ目をやっていたチェ・ボクマンは独り言のようにつぶやいた。
「写真が出来上がったら、それを見てオクポ里の放牧地に通じる道だとわかるでしょうか」
「それはどういう意味ですか」
「遠い将来に、写真を見る人たちが
「さあ・・・あの丘越しに見えるオクポ里の所在地が写真のバックとなれば、誰が見てもすぐ分かるでしょうが、ここで撮ったものだと・・・」