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短編小説「黄金の稲穂は揺れる」(8)
 チュチェ110(2021)年に出版された短編小説「黄金の稲穂は揺れる」
第8回 
 
 「故郷を立派につくると言ったとのことですね?具体的にはどうするというのですか」
 「つい、そこまでは聞きとめませんでした」
 パク・チンスは頭を垂れた。被害復旧の協議だけに汲々としたので、そこまでは考えが及ばなかったのだ。総書記はいかにも残念そうに話した。
 「聞いてみたら良かったですね」
 パク・チンスの目の前には、ふと、キム・ヨンテ管理委員長の顔が浮かんだ。農場の戸主であるヨンテが対策案を協議するところに居合わせはしたものの、何の返事もなかったじゃないか。
 パク・チンスは、現在、ピョンヤンで再教育を受けているカンミョン里管理委員長が夜通し歩いて郡党に来た事を話した。パク・チンスの話を聞いた総書記は驚いて聞き返した。
 「夜通し歩いてきたんですか。そんな遠い道をです」
 「はい」
 「管理委員長はどのような人ですか」
 パク・チンスは自分の知っている限りを話した。
 カンミョン里が故郷であるヨンテは、軍隊服務を終えて故郷に戻り、平農場員から仕事を始めた。腕力がつよく頑強なヨンテは毎年、豊作をもたらした。ヨンテは遅く、村が被害を受けたことを聞き、夜通し歩いて郡党に来たのだ。
 総書記は慎重な語調で聞いた。
 「管理委員長が・・・どうして夜通し歩いてきたと思いますか」
 パク・チンスは答えられなかった。被害復旧のためだと当たり前の答えをすることができなかったのだ。
 しばらくの間、執務室は無言のままだった。やがて総書記の物静かな声が室内に響いた。
 「管理委員長が夜通し歩いて郡党に来たには、なんか事情があるはずです。故郷が被害を受けたこともそうですが、それだけではないようです。調べてみなさい。もしかしたら、管理委員長に私たちが知らない自分なりの考えがあるとも限りません。
 被害復旧を早くするのも重要だけど、より重要なのは人々の気持ちを正確に知って、その要求に合う被害復旧をすることです。  
 私は、なぜか住宅の修繕が気に入りません。副部長も目で見てわかるでしょうが、カンミョン里の家はあまり古びています。そんな家の修繕をいくらしても甲斐がなく、後にまた被害を受けやすいです。そのような家を修繕するんだと思うと、なにも手につきません。 名もない村だからと被害復旧を簡単に思うのでなく、もっと念をいれて考えなければなりません。
 地理的に遠いところだからこそ、私たちの情はもっと暖かく行きとどかねばなりません。自分の故郷が被害を受けたなら修繕だけで止まらないでしょう。わが党が人民に接する観点と立場はいつもひとつです」
 「・・・」
 金正恩総書記は、対策案については最後まで一言も触れなかった。