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短編小説「黄金の稲穂は揺れる」(9)
 チュチェ110(2021)年に出版された短編小説「黄金の稲穂は揺れる」
第9回 

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 金正恩総書記の言葉を吟味するほど、パク・チンスは良心の呵責に耐えない思いだった。どうして、こうなったのだろう。自分としては農村を良く知り、農場員の心理を見抜いていると自負していたのに・・・
 パク・チンスは、再び郡に下りていった。そして驚くべきことに出会った。キム・ヨンテ管理委員長が勉強を止めて、農場に下りてくると正式に願い出たのだった。郡党の幹部はどうしてよいかわからなかった。 
 パク・チンスは聞いた。
 「管理委員長がどうして勉強を止めると言うのですか」
 「それは・・・多分、農場が被害を受けたのだから、当然自分がいなければならないと思ったのでしょう。勉強はいつでもできますが、一年の農作と家のことは一時も後回しにできないと言うのが管理委員長の論拠です」
 「他の理由はありませんか」
 「・・・」
 郡党の幹部はもじもじした。言おうか言うまいかとためらっているらしかった。パク・チンスは待った。郡党の幹部はどうしようもなかったのか、口を開いた。
 「実は・・・家の修繕が気に入らないようです。前から家を建て直すと張り切っていたのが、急にこうなったのですから。それで下りてこようと思っているんです。物足りないけれど自分の目で直接、家の修繕の様子が見たかったのでしょう」
 郡党の幹部は、何年か前からヨンテが家を建て直そうと気を揉んだこと、自分が見取り図まで描いたことまで話した。その話を聞いたパク・チンスは胸が震えるのを押さえられなかった。見取り図が・・・あったとは。
 なのに、どうして私はそれを知らなかったのか、それも知らず家の修繕をしようとしたのだから、ヨンテが勉強を止めるというのも当たり前だ。どれだけ家の修繕が気に入らなかったなら農場に下りてくると願ったのか。
 パク・チンスは自分を振り返ってみた。総書記の教えがなかったならどうなったことだろう。人民の苦痛を自分の痛みとして心から分かち合おうと努めなかったのだから、総書記に心配をかけたのだ。
 カンミョン里に下りていったパク・チンスは、また、ショックを受けた。カンミョン里の人たちが新居を羨ましがりながらも、国のことを考えて古い家を修繕しようと していたからだ。  涙が出るほど感動しながらも一方では自分になにか真実を打ち明けるのをためらっているようで寂しかった。
 そうなるほど、ヒョンアは、明るく笑い、パク・チンスの気持ちを晴らすため振舞うようだった。
 「国のことを先に思うのが百姓の本分ですよね。私たちの家を現状どおりにしてくれたらそれまでです。本当です」
 「管理委員長の考えは、それだけではないと思うんだけどね。下りてくると言うくらいだから。家のことが気にかかるんだろうね」
 ヒョンアは仰天した。
 「うちの父がですか。誤解しないでください。父が下りてくるというのは農作のためです。一年の農作が心配でです」
 ヒョンアは、自分の言葉が本当だとパク・チンスに分かってもらいたかった。
 パク・チンスは、平然を装いながらヒョンアに言った。
 「私は、分からないな。あなたの言葉を信じるべきか。見取り図を見せてくれるなら話は違うけど」
 「それまで・・・知ってるんですか」
 ヒョンアは目を丸くして気が進まないまま、見取り図を差し出した。ヒョンアが差し出した見取り図を見たパク・チンスは目を大きく見開いた。
 見取り図は家の修繕ではなかった。瀟洒な新居が並び、公共施設とサービス施設が調和を取って描かれていた。見取り図にはカンミョン里の人たちの大事な夢と明日の姿が美しく映っていた。
 パク・チンスは、何も言わずに見取り図を眺めた。こんなものがあったのも知らなかったのだから、どんなに大きな過ちなのか。
 パク・チンスは、人々の心の奥底まで見極めるべきだとの総書記の教えを改めて肝に銘じた。