/ コンテンツ - 本
短編小説「黄金の稲穂は揺れる」(10)
 チュチェ110(2021)年に出版された短編小説「黄金の稲穂は揺れる」
第10回
 
 カンミョン里から帰ってきたパク・チンスは自分が見て聞いた全てをひとつも漏らさず敬愛する金正恩総書記に報告した。総書記はとても喜んだ。
 「見取り図があったんですか、よろしい」
 総書記は明るく笑った。
 「ですが、ひとつ・・・管理委員長が勉強を止めて降りてくると言っています」
 「管理委員長が?・・・当然でしょう。故郷を心から愛する人が被害を受けた村はさておいて勉強するなんて、気がきでないしょう。でも、管理委員長が降りてくる必要はありません。なにがなんでも委員長がいないからとならないわけはないでしょう」
 「それだけではないようです。農作の心配で降りてくるようです」
 「そうでしょう。人民は自分の本分をあまりにも良く知っています。それでわが党は比べようもない難関と試練が折り重なっても、いつも人民を信じてその力に頼って掻き分けています。だからと言って、勉強する人まで戻らなくてはならないでしょうか」
 「・・・」
 総書記は明るい微笑を湛えた。
 「私は、カンミョン里管理委員長が気に入ります。農場の主人はそれぐらいでならないとだめです。率直に言って管理委員長が家の修繕をすることで満足してたら私は残念だったでしょう。農民の考えと抱負がそうではなりません。
 農民の夢は当然広いものでなければ。私は農民の夢と目指していることを極力支持します。わが党の政治理念は昨日もそうですが、今日も変わりなく、この世でもっとも立派な人民に何にも増して幸せな生活をさせることです。
 『われら幸せ歌う』の歌が過去の思い出だけでなく、現在も高らかに歌われるようにしようというのがわが党の意図です。こうしてみると、国がいかに苦しくてもわが党だけを信じ全てを捧げている農民に以前に住んでいた古びた家の修繕だけでは足りません。大胆に取り払いましょう」
 パク・チンスは、急に目頭が熱くなった。農民にどれだけ立派な家と文化的な生活をさせたかったなら、見取り図があるのをそれほど喜び、管理委員長を褒めたのだろう。
 瞬間、瞬間を人民のために尽くし、人民の幸せな生活のため心を砕く父のような熱い思いに、パク・チンスは心の奥を何と言い表してよいか分からなかった。
 総書記は話を続けた。
 「管理委員長は勉強を続けるようにし、その代わり、委員長の欲は私たちが満たしてあげましょう。農作も心配入りません。大事なのは自分たちの素晴らしい住宅が建てられるのを見れば、農民たちは前より何倍もの力を出すことでしょう。 
 軍隊と人民が力をあわせて農作もし、住宅もこれ見よがしに建ててあげましょう。軍隊と人民の団結した力に叶うものはないでしょう。その力はこれからも永遠に続くでしょう」
 パク・チンスは、敬虔な気持ちで総書記を仰いだ。宣言するように語る総書記の姿に大いに力づけられた。でも、その無限の愛の世界がいかに高く深いかはまだ知るよしもなかった。
 
 同じ時刻、ヨンテはいらだつ思いで自分の願いが受け入れられることを待っていた。荷造りはとっくに終わっている。
 荷物といっても衣類と本が全部で、あらかじめしておいたほうが良いと思ったのだ。
 ヨンテの頭は終始村のことばかりだった。住宅問題もそうだが、植えたばかりの苗がどうだか知りたかった。寝てもさめても娘の顔が目の前にちらついている。
 初年度の農作をするヒョンアが今の状態で慌てはしないかとの心配だった。農民が農作を離れて何を考えよう。
  ああこう考えていたヨンテは日が差す窓を見上げた。まぶしいほどの日差しが入ってくる。
 うちの村もあの日差しのようにまぶしかったら。
 わが身のような故郷・・・他人がうらやむよう立派に築き、いつまでも暮らしたい故郷・・・ 
 しかし、これはかなえられないことだった。ヨンテは静かにため息をついた。