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朝鮮民話「3人の兄弟とその妹」
 ある村に年老いた農民夫婦と三人の息子が住んでいました。村人たちは勤勉な孝行息子を持つその一家をうらやましがりましたが、農夫は娘のいないのがものたりなくて仕方がありませんでした。
 ところがその後、何年かたってからそれほど待ち望んでいた娘が生まれました。農夫はそのひとり娘を目の中に入れても痛くないほどかわいがりました。娘はやがて一輪のバラのように愛らしく育ちました。
 娘が10歳になった年の夏、尾が九つもある年とったキツネが、峠を越えてイチゴを取りにいったその娘を食べてしまいました。そして、クルクルとトンボ返りをして娘に化けたのち、農夫の家へ姿を現しました。
 しかし純真な農夫は、赤いイチゴの入った手かごをさげて、ニコニコしながら帰ってきた娘がキツネだとは夢にも思いませんでした。農夫は娘をあまりにもかわいがっていたので、ニセの娘が自分をだましていることにも気がつきません。それでなんでも娘の言いなりになっていました。
 ところが不思議なことが起こりました。飼っていたニワトリが毎晩1羽ずつ鳴き声も立てずに死んでしまうではありませんか。病気にかかったわけでもないのに死んでしまうのです。
 「これはきっと家が滅びる不吉なまえぶれじゃ。どうしたわけだか調べてみよう」 
 農夫は長男に、いり豆を1升渡しながら言いました。
 「ニワトリがどうして死ぬのか、馬小屋のそばで夜通し見張るのだ」
 それで長男は、眠くなると豆をかじりながら鶏小屋を見張りました。
 虫の鳴き声も止み、あたりがしーんと静まりかえったころ、どこからか足音が聞こえてきました。
 ぞーっとしましたが、恐ろしさをこらえて音のする方を見つめました。一瞬かれは自分の目を疑いました。そこへやってきたのは、なんと妹だったのです。
 妹はそっと鶏小屋に近づくと、いきなり一番大きなニワトリの口に指を突っ込み、その肝を取り出して、おいしそうに食べると姿を消してしまいました。長男はその場に呆然と立っていましたが、やがて気を取りもどして鶏小屋に行ってみると、肝を取られたニワトリは死んでいました。かれは背筋がぞくぞくしました。
 夜が明けてから、長男は父に昨夜の出来事を知らせました。
 ところが、父は不機嫌そうに言いました。
 「何を寝言を言っているんだ。居眠りをして夢でも見たんだろう」
 その夜、農夫は次男を呼んで同じことを言いつけました。
 「夜中に眠くなったらこの豆を食べるがよい。居眠りをしないでしっかり見張るのだぞ」
 そしてまた豆を1升与えました。
 次男は日が暮れると小屋の隅にかくれていました。豆を食べながら夜遅くまでがんばりましたが、なんの気配もありません。ところが明け方になって足音が聞こえました。
 次男は大きく目を見張りました。すると妹がニワトリの肝を取って食べるではありませんか。夜が明けると早速、かれはありのままを父に話しました。
 父は大声を張り上げました。
 「妹をねたんで、ありもしないことをぬかしてぬれぎぬを着せるつもりか、不孝者めらが…。とっとと出て行くがよい」
 真っ赤になって怒った農夫は、2人の息子を家から追い出してしまったのです。
 その夜、農夫はまた三男を呼んで、鶏小屋を見張るようにと言いつけました。
 小屋の隅にちぢこまっていた三男も、やはり妹がニワトリの肝を食べるのを見ました。しかし、ありのままを話せば、兄たちのように追い出されそうなので、「夜中にニワトリがひとりでに倒れて死にました」とウソをつきました。
 「それに違いない。お前こそわしの息子じゃ。妹をねたんで親のわしをだまそうとした兄たちは、わしの子じゃない」
 三男の言葉を真にうけた農夫は、喜んでこう言いました。それで三男は追い出されずにすんだのです。
 罪もなく家を追われ、山の中をさすらっていた長男と次男は、道端に倒れている年寄りに行きあいました。うめき声を出して苦しんでいる老人を気の毒に思った兄弟は、その老人をかれの山小屋に背負って行きました。
 「ありがたいことじゃ。ところでお前さんたちは、どこへ行くところじゃな」
 二人の手厚い介抱で正気に返った老人は、こうたずねました。
 「わたしたちは家から追い出され、あてもなくさすらっているところです」
 兄弟は老人に、ことの次第を話しました。
 「なんと気の毒なことじや」
 老人はこう言ってビンを3本、かれらに与えました。
 「粗末なものだが、これをあげよう。白い水の入っているビンはいばらのビン、赤いのは火のビン、それからこの青いのは水のビンじゃ。あぶない目にあったときは、このビンを投げなさい」
 老人はビンの投げ方も教えてくれました。兄弟は礼を言ってまた旅に出ました。
 何年かの放浪を終えたのち、2人が故郷に帰ってみると家は荒れはて、庭には雑草がいっぱい生えていました。2人は不審に思いながらも庭に足を踏み入れました。
 「兄さん、いままでどこへ行ってたのよ」
 人気のない家の中からニセの妹が現れて、いそいそと2人を迎えました。娘の目がらんらんと異様に燃えていました。
 「お父さんやお母さんは留守なのかい?」
 まず長男がたずねました。
 「二人とも亡くなりました」
 「弟は?」
 「兄さんも亡くなりました」
 「家畜はどうした?」 、
 「ニワトリやブタはわたしが食べてしまいました」
 兄弟は妹がニワトリやブタばかりでなく、家族たちも食べたに違いないと思いました。二人は恐ろしさに息が止まりそうでしたが、つとめて笑顔をつくり、こう言いました。
 「歩きどおしでのどがかわいた。丘のふもとの泉に行って冷たい水を汲んできておくれ」
 「じゃ、部屋にあがって休んでいなさい。水を汲んできますから」
 妹は水がめを頭にのせて泉に出かけました。兄弟はこのときとばかり、一目散に逃げ出しました。
 泉から戻った妹は二人がいないのに気がつき、ものすごい勢いで追ってきました。
 「逃げようったってだめだぞ。止まれ!」
 振り返って見ると、尾が九つもある大きなキツネが追ってくるではありませんか。兄弟はやっと、キツネが妹に化けていたことに気づきました。
 キツネは、みるみるうちに二人に追いつきました。そのとき長男は、キツネめがけて白いビンを投げつけました。するとたちまち、あたり一面にいばらのやぶが広がりました。キツネは体中とげに刺さって悲鳴をあげましたが、それでもやぶをかきわけて追ってきます。
 こんどは次男が赤いビンを投げつけました。するとビンが割れた拍子に火花が散り、あたり一面に炎が燃え上がりました。しかしキツネはとげに刺され、火傷を負いながらも必死に追いかけてきます。
 「お前たちも食べてやるぞ。一人残らず食べてやるんだ!」
 キツネは毒々しくののしりながら、炎の中をくぐって駆けてきます。



 長男は最後に青いビンを投げつけました。するとどうでしょう。ザーッと水の流れる音がして、あたりはたちまち海になってしまいました。二人を追っていたキツネは水におぼれて苦しそうにもがいていましたが、とうとう海の底に沈んでしまいました。
 こうして親兄弟のかたきを討った兄弟は、家に帰って末長く幸せに暮らしたそうです。